大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)3296号 判決 1985年12月20日
原告
敦賀自動車工業株式会社
ほか一名
被告
和田弘
主文
1 原告らの被告に対する、別紙交通事故に基づく損害賠償債務は、各自、存在しないことを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
原告らの被告に対する、別紙交通事故に基づく損害賠償債務は、各自、存在しないことを確認する。
二 請求の趣旨に対する答弁
原告らの請求を棄却する。
第二当事者の主張
一 請求原因
(一) 事故の発生
別紙交通事故が発生した。
(二) 責任原因
原告敦賀自動車工業株式会社(以下、原告会社という)は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していた。
原告武岡進(以下、原告武岡という)は、前方不注視の過失により、本件事故を発生させた。
(三) 損害
1 受傷、治療経過等
(1) 受傷
頸部捻挫、背部挫傷
(2) 治療経過
被告は、事故当日の昭和五八年一月一八日、室整形外科において通院治療を受け、同月二一日からはミスミ病院において入院治療を受けている。
(3) 後遺症
被告は、本件事故による傷害のため、遅くとも昭和五九年一月末日ごろには、頸部に神経症状を残して症状固定した。
2 治療関係費
(1) 治療費
(イ) 室整形外科 一万八、三〇〇円
(ロ) 柏木外科 三万二、三六〇円
(ハ) ミスミ病院 三六九万二、七七七円
但し、昭和五八年一月二一日から同年三月末日までの自由診療治療費二四二万三、三六〇円と同年四月一日から昭和五九年一月末日までの国保自己負担分一二六万九、四一七円の合計
(ニ) 国立大阪病院 三万二、二四〇円
(ホ) 大阪市大医学部附属病院 四、八〇八円
(2) 装具代 一〇万七、〇〇〇円
(3) 入院雑費 三六万五、〇〇〇円
3 逸失利益
(1) 休業損害
被告は、事故当時四〇歳であつて、食品販売業を経営し、毎月多くとも三八万六、五〇〇円(賃金センサス平均賃金)の収入を得ていたところ、本件事故のため、昭和五八年一月一八日から遅くとも昭和五九年一月一七日までの休業を余儀なくされ、その間合計四六三万八、〇〇〇円の損害を被つた。
(2) 将来の逸失利益
被告は、前記後遺障害のため、症状固定時より二年間にわたつて五%の労働能力を喪失したものと考えられるから、中間利息を控除して将来の逸失利益を算定すると、四三万一、五六六円となる。
4 慰藉料
入・通院慰藉料は一五〇万円を超えない。
後遺障害慰藉料は六〇万円を超えない。
(四) 減額事由
1 過失相殺
被告は、その雇用する訴外前田弘之に被害車を運転させていたものであるところ、訴外前田弘之は右前側方不注視及びハンドルブレーキ操作不適の過失により本件事故を発生させたものであるから、被告の損害を算定するにあたり、訴外前田弘之の過失を被害者側の過失として考慮し、過失相殺されるべきである。
また、被告は、被害車後部座席一杯に家財や布団を積み上げたうえ、天井との間のわずかな隙間に進行方向に向つて右横に頭を向けて寝るという不適当な乗車方法により乗車していた過失により、被告の損害を拡大させたのであるから、過失相殺されるべきである。
2 体質、心因性の寄与等
被告は、事故当時、自らが刑事被告人として起訴された公判が継続中であることから、本件事故による症状を理由に右公判期日への出廷を再三にわたつて回避しているのであつて、本件事故による傷害の部位、程度が軽微であつたのに、入・通院治療が長期化したのも、治療が被告のかかる刑事公判廷への出廷拒否に利用されていたためであることは明らかであるうえ昭和五九年四月一日には助手席に乗つていて追突事故に遭遇しているのであつて、被告のミスミ病院における主訴及び長期入院は、本件事故とは因果関係にない心因的若しくは体質的寄与のもとに生じたものであるからその寄与率を控除すべきである。
(五) 既払額
1 休業損害等の名目で 五六〇万円
2 治療費の名目で 三三九万〇、七六九円
被告は、合計八九九万〇、七六九円の支払いを受けている。
(六) 本訴請求
よつて、被告の最大限に見積つた総損害額一、一四二万二、〇五一円のうち、過失相殺率四〇%、体質的素因等の寄与率四〇%をそれぞれ控除すると、残損害額は存在しないので、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
二 請求原因に対する認否
(一)の事実中1ないし4は認めるが5は争う。
(二)は認める。
(三)のうち1の(1)、(2)は認めるが、その余は争う。
(四)は争う。
(五)は認める。
三 抗弁
(一) 損害
1 治療状況
被告は、室整形外科で昭和五八年一月一八日通院治療を受け、翌一九日から二一日までは柏木外科胃腸科で通院治療を受けてのち、昭和五八年一月二一日から昭和六〇年二月二五日までミスミ病院へ入院し、退院後も同病院で通院治療を受けている。
2 休業損害
被告は、事故当時、大和食品工業(株)、湊食品から報酬月額六九万五、〇〇〇円の収入を得ていたが、ミスミ病院入院中の二五か月間は就労不能であつたため、右期間中だけでも合計金一、七二五万円の休業損害を被つた。
3 入・通院慰藉料 五〇〇万円
4 後遺障害に基づく損害 一、五〇〇万円
被告は、後遺障害診断書を作成してもらうべく諸検査を実施中に短期刑に服したため後遺障害の内容、程度が確定せず、その算定は困難であるが、少なく見積つても、本件事故による後遺障害のため、被告は、将来の逸失利益及び慰藉料として、一、五〇〇万円の損害を被つた。
(二) 結論
原告らは、本件事故の発生及び責任原因について自認しており、これを被告においても援用するものであるが、本件事故に基づく被告の損害が原告らの既払額を超えて存在する以上、原告らの請求は棄却されるべきである。
四 抗弁に対する認否
(一)は否認する。
第三証拠
記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。
理由
第一事故の発生
請求原因(一)の1ないし4の事実は、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三ないし第五号証、第九号証、証人前田弘之の証言、原告武岡進本人尋問の結果によれば、同5の事実が認められる。
第二責任原因
請求原因(二)の事実は、当事者間に争いがない。従つて、原告会社は自賠法三条により、原告武岡は民法七〇九条により、本件事故に基づく被告の損害を賠償する責任がある。
第三損害
一 受傷並びに治療経過等
(一) 成立に争いのない甲第七号証、第八号証の一、二、第一〇、第一一号証、第一五、第一六号証、証人戸田稔の証言、被告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、1、被告の入・通院経過をみると、被告は本件事故直後福井県敦賀市に所在する室整形外科で受診したが、同外科医師はレントゲン検査等の結果、被告の病名を頸椎捻挫、右側頭部挫傷とし、約一週間の加療と経過観察を要する見込みと診断して皮下筋肉内注射と投薬治療を実施したこと、その後、被告は、昭和五八年一月一九日から同月二一日までの三日間、大阪市平野区所在の柏木外科胃腸科へ通院し、胸椎レントゲンの検査を受けた結果、外傷性頸部捻挫、胸部痛、頭部打撲の傷害を負つているとして、静注、頸部、胸部湿布、内服薬の投与による治療を受けたこと、ところが、被告は、他院で入院治療が必要である旨指示され、本院を紹介されたとして、頸部痛、頭痛、背部痛のみならず、両手にしびれ感、嘔気、嘔吐をも訴えて、昭和五八年一月二一日、大阪市平野区所在のミスミ病院へ行き、同病院で受診したところ、同病院院長は訴えのみを聞いて入院をすすめ、まず入院することを決定してのちに頸椎及び胸椎のレントゲン検査を実施し、同日、独歩入院したこと、2、治療経緯をみると、被告には、レントゲン検査の結果、経年性の第三、第四頸椎椎間板の狭少化がみられるにすぎず、ジヤクソンテスト、スパーリングテストが陽性反応を示した以外は、さしたる他覚的所見がみられなかつたこと、しかるに、安静治療、投薬、静注、大後頭神経、僧帽筋肩甲棘上神経ブロツク注射治療、理学療法などの治療法が実施されても、なお、医学的にみて理解できないほどに治療効果があがらなかつたこと、ミスミ病院医師も、昭和五八年九月一七日ごろから被告に外泊許可を与え、通院治療への切かえのための外泊訓練を実施したのに、被告自身、入院中に毎日行なわれている点滴治療をしないと気分が落ち着かず、自身症状が悪化するとの主訴があつたことから、なおも前記同様の入院治療を継続した結果、同年一一月一〇日ごろにはすでに他覚的症状は和らぎ、再度通院治療への切換えのための外泊訓練がこころみられたこと、ところが、昭和五九年に入ると被告の症状は、医学的には全く説明のつかない身体の硬直などの他覚症状を訴えはじめ、同病院では強制退院をさせることもできないまま継続して昭和六〇年二月二五日まで入院治療してきたこと、ところで、被告には不定愁訴が多く、昭和五八年五月ごろには、眼および耳の障害を訴え、大阪市大医学部附属病院で精密検査を受けたが、眼については霧視を訴えていたものの視力低下もなく、また、前眼部、中間透光体にも異常が認められず、眼底で乳頭が軽度であるという程度の症状であり、耳については耳鳴を訴えていたものの、明白な異常所見となかつたことからミスミ病院医師は、被告の眼および耳の障害などの被告の不定愁訴は、いずれも頸部の血行障害が原因をなしているのではないかと理解し、以後も継続してビタミン剤の投与を続けていたこと、一方、ミスミ病院におけるリハビリ治療をみると、すでに入院直後の昭和五八年一月二三日ごろから介達牽引を開始し、発熱及び被告の疼痛の訴えのない日には、継続してリハビリ治療が実施されていること、3、ミスミ病院医師も、入院当初、敦賀地検検察事務官からの照会に対する回答で、昭和五八年二月一九日現在被告を治療中ではあるが、今後一四日程で治癒見込である旨述べた程度の判断であつたこと、ところが、被告の症状が、通常の頸部捻挫の患者に比較してその訴える症状が強く、かつ、多採であつて治療効果もないまま入院治療も長期化してきたため、昭和五八年七月ごろには、その受傷機転を疑い、被告に詳しく本件事故態様を詰問してみたが、受傷機転のみでは治療効果のない理由が判然とせず、同年一〇月二〇日には、それまでの被告の多採な不定愁訴を集約して諸々の検討を加えたものの、結局、被告の病原を充分に把握するまでには至らなかつたこと、しかしながら、同病院医師の判断する治療の長期化理由としては、(1)、医学的には、入院当初に発見されていた経年性の第三・第四頸椎椎間板の狭少化、昭和五八年四月一九日施行のシエログラフイーにより発見された、本件事故とは全く因果関係のない第四・第五腰椎椎間板の軽度突出が考えられ、(2)、本件賠償問題が解決しないところへ、被告を刑事被告人とする刑事(道路交通法違反)公判廷への出廷を控え、有罪となればすでに実刑判決を得ることが必至の公判期日への出廷日が近付く(なお、同病院医師作成の診断書により現に出頭しなかつた公判期日もみられる。)など心理的に不安な要素が蓄積されていたことが重なつて、昭和五九年に入ると、遂に、医学的には全く説明のつかない身体の硬直症状が出現してしまい、もはや、治療効果がなくなつてしまつたことを挙げていること、4、昭和五九年一月ごろの被告の症状としては、本件事故に基因する他覚的所見はなく、背から肩にかけての疼痛及び手足のシビレ感、頭痛などの自覚症状のみであつて、かつ、右の症状は、既に、昭和五八年一一月一〇日ごろから変化のないこと、5、被告は、外泊中の昭和五九年四月一日、自動車助手席に乗車していた際、追突事故に遭つた旨主治医に申し出ていること及び昭和六〇年九月には遂に服役するに至つたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
(二) 右事実をもとに、被告の本件事故による傷害の症状固定時期及び後遺障害の内容、程度を判断するに、受傷直後に受診した室整形外科の診断によれば、被告の傷害は頸椎捻挫、右側頭部挫傷であつて、約一週間の加療及び経過観察を要する見込みと診断されており、柏木外科胃腸科から転医したミスミ病院では被告の希望もあつて入院治療をすることとしたが、同病院では、頸椎捻挫の急性期には禁忌とされている介達牽引を、入院当初から施術しているのであつて、同病院医師としては、入院当初、昭和五八年二月末か同年三月初旬には治癒見込みと判断していたこと、ところが、被告において、同病院の治療方針に適応せず、既往症ともいうべき経年性の変化が存在したのみならず、自らを刑事被告人とする刑事公判廷への出廷問題及び本件の賠償問題も重なつて心理的に不安定となり、不定愁訴が多採となつたために長期の入院治療を必要とすることとなつたことが認められ、かつ、同病院医師は、遂に、昭和五八年九月一七日ごろには外泊訓練を始めており、同年一一月一〇日ごろにも再度外泊訓練が行われ、被告の症状もそのころには比較的安定しており、主訴も一定し、治療方法も同一のまま二か月以上経過していること、昭和五九年に至つて表われた身体の硬直などの他覚的所見は、医学上、本件事故による傷害と因果関係がないこと及び昭和五九年四月一日ごろにも追突事故に遭遇していることを考え合せると、被告の本件事故による症状は、遅くとも、昭和五九年一月末には症状固定したものと認められ、また、右症状固定時の後遺障害の内容は、本件事故と因果関係にある他覚的所見はなく、自覚症状として背部から肩へかけての疼痛がみられ、その程度は、局部に神経症状を残すもの(後遺障害等級一四級一〇号)に該当するものと認められる。
二 治療関係費
(一) 治療費
成立に争いのない甲第一五ないし第一七号証、第一八号証の一、二、第一九号証の一、二、第二〇号証の一ないし五、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二号証、第一三号証の一ないし五並びに弁論の全趣旨を総合すれば、
1 室整形外科医院 一万八、三〇〇円
2 柏木外科胃腸科 三万二、三六〇円
3 ミスミ病院 三五八万七、七七七円
但し、昭和五八年一月二一日から同年三月三一日までの自由診療治療費二三一万八、三六〇円(請求額二四二万三、三六〇円から一〇万五、〇〇〇円を減額)並びに同年四月一日から昭和五九年一月三一日までの国保被保険者自己負担分一二六万九、四一七円の合計
4 国立大阪病院 三万二、二四〇円
5 大阪市大医学部附属病院 四、八〇八円
をそれぞれ要したことが認められる。
(二) 治療関係費
成立に争いのない甲第二一号証の一、二によれば、被告は治療装具代として一〇万七、〇〇〇円を要したことが認められる。
(三) 入院雑費
前記認定の被告の入院経過及び経験及び経験則によれば、被告は、入院雑費として合計三六万五、〇〇〇円の費用を要したことが認められる。
三 逸失利益
(一) 休業損害
被告本人尋問の結果によれば、被告は、事故当時、それまで大阪府八尾市で続けていた鶏解体業は昭和五七年八月の工場立ち退きとともに一旦休業し、福井県への工場移転をはかつて再度の事業遂行のために工場建設問題、仕入先、仕入量の打合せ等の業務を遂行していたのであつて、少なくとも被告と同年代男子労働者平均賃金である年収四八三万七、七〇〇円(昭和五八年度賃金センサス)の労働をしていたものと認められるところ、本件事故のため、昭和五八年一月一八日から症状固定日である昭和五九年一月末まで休業を余儀なくされ、その間合計五〇二万三、二五五円の収入を失なつたことが認められ、右金員を超える分は、本件事故と相当因果関係がない。
(二) 将来の逸失利益
前記認定の被告の労働の内容及びそれに対する対価、傷害の部位、程度、後遺障害の内容、程度によれば、被告は、症状固定日以降である昭和五九年二月一日から二年間にわたつて五%の労働能力を喪失したものと認められるから、ホフマン式による中間利息を控除して将来の逸失利益を算定すると、四五万〇、一四七円(円未満切捨て。以下同じ)となる。
四 慰藉料
前記認定の本件事故の態様、被告の傷害の部位、程度、治療経過、後遺障害の程度等諸搬の事情を考慮すれば、被告の慰藉料額は一五〇万円とするのが相当である。
第四減額事由
一 被告の体質的素因及び心因性の寄与度
前記第三の一(一)の事実によれば、(1)、被告には、本件事故と因果関係のない経年性の第三・第四頸椎椎間板の狭少化、第四・第五腰椎椎間板の軽度突出がみられ、(2)、本件賠償問題及び被告を刑事被告人とする刑事公判廷への出廷、服役問題があつたことから、通常の頸椎捻挫の患者に比較して入院治療が長期化したものであることが認められ、右事実のうち、経年性の第三・第四頸椎椎間板の狭少化により顕在化した多採な自覚神経症状及び本件賠償問題は本件事故が引き金になつて発生したものではあるが、第四・第五腰椎椎間板の軽度突出及び刑事公判廷への出廷、服役問題は本件事故により発現した諸症状と密接に関連し、密接不可分ではあるものの、本来、本件事故とは全く因果関係がない素因であることを考慮すると、損害の公平な分担という理念から民法七二二条を類推適用し、被告の損害のうち三割五分を控除するのが相当である。
そうすると、被告の本件事故による損害は、総損害額一、一一二万〇、八八七円から三割五分を控除した七二二万八、五七六円となる。
二 過失相殺
(一) 成立に争いのない甲第三ないし第六号証、証人前田弘之の証言、被告本人尋問の結果を総合すると、訴外前田弘之(以下、前田という)は、自己の保有する加害車を運転して福井県から大阪府へ向けての帰途、本件事故を発生させたこと、前田は昭和五三年頃から同業者ということで被告と親交があり、事故当時は被告が設立する予定の大和食品に勤務していたこと、当初、前田は加害車を運転して一人で大阪へ帰る予定であつたが、前田自身の発案で、前田と同様に大阪へ帰る予定であつた被告ら家族を加害車に同乗させることとし、助手席に被告の妻及び子供が乗車し、後部座席には積荷を乗せ、その上に主として被告の家族の使用する布団等の生活用品を積み、更に、その布団の上に電子レンジを積み、これを枕がわりにして頭部を運転席の方に向け、足部を助手席の方へ向けて膝を立てて横臥していたため被害車ルームミラーの効用を滅失させてしまつていたこと、原告武岡の運転する加害車の左前部及び左前側部が被害車の後部座席右ドアーの鋼板部に衝突したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
(二) 右認定事実によれば、被告及びその家族は、前田の雇主である被告の命によるものではなく、前田の発案により、その好意にあまえて、前田の保有する被害車に同乗していたものであつて、全証拠によるも、事故当時、被告が同乗するにつき、被告と前田とが身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられる関係にあるものと認めることができないから、前田の過失を被害者側の過失として、被告の損害を考慮するにあたつて、過失相殺することはできない。
しかしながら、右事実によれば、被告は、後部座席に積荷を乗せ、かつ、その上に布団等の生活用品を乗せ、更にその上に電子レンジを乗せてこれに頭を置いて横臥し、加害車ルームミラーの効用を滅失させる状態で同乗していたというのであつて、車両に乗車する被告は、当該車両の運転者である前田の視野を妨げたり、ルームミラーの後写鏡の効用を失なわせることになるような乗車をしてはならない注意義務がある(道交法五五条3項)のに、これを怠つた過失が認められ、右の過失が本件事故発生の直接原因ではないものの、右の如き被告の乗車方法が被告に頸部捻挫の傷害を負わせ、被告の損害を拡大させたものというべきであるから、民法七二二条を適用し、被告の損害のうち一割を控除するのが相当である。
そうすると、被告が原告らに請求しうる金員は六五〇万五、七一八円となる。
第五損害の填補
原告らは被告に対し、休業損害等の名目で五六〇万円、治療費名目で三三九万〇、七六九円を支払つたことは、当事者間に争いがない。
第六結論 以上認定のとおり、被告が原告らに請求しうる金員は六五〇万五、七一八円であるところ、原告らは被告に対し既に八九九万〇、七六九円が支払われているから、原告らの本訴請求は理由があるので認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 坂井良和)
別紙交通事故
1 日時 昭和五八年一月八日午後四時一〇分頃
2 場所 福井県敦賀市長沢一三―一〇
3 加害車 普通貨物自動車(福井 四四 つ 九四二二・以下加害車という)
右運転者 原告武岡進
4 被害者 軽四輪貨物車(和泉四〇 こ 六二八九・以下被害車という)の後部座席に横臥していた被告
5 態様 原告武岡が加害車を運転して事故現場北にある車両展示場から一旦後退し、続いて右折のうえ事故現場南のガソリンスタンドへ進行しようと右折南進中、国道八号線を南進し、一旦停止のうえ右折し、右ガソリンスタンドへ進入しようとした被害車右側面に自車左前部を衝突させたもの